講演:TACTILE=触覚

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先日訪れた逗子での講演「ムナーリの本」の講師岩崎清さんにお誘いいただき
東京青山にあるこどもの城で開催された駒形克己さんの講演
「TACTILE=触覚 」を聴講してきました。

以前にレッジョ教育大人講座にて講師の石井さんに
駒形さんが制作された絵本をご紹介していただきました。
レッジョで大変人気のある作家さんだそうです。
5月にディダルテ(美術専門図書館)を訪れた際に、世界各国から集められた本の中に
駒形さんの本だけを集めたコーナーがありました。
それだけレッジョにゆかりのある方。
石井さんにも「是非に」とお薦めいただいて今回お話を伺いに行ってきました。

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レッジョエミリアにあるディダルテの様子

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駒形克己さんは造本作家/グラフィックデザイナー。
日本グラフィックデザインセンター、永井一正さんのアシスタントを経て
1977年、23歳の時に渡米。
1983年に帰国され、その後結婚、娘さんが生まれたそうです。
その頃から、娘さんとコミュニケーション(共有)するための
本の制作を始められました。それが駒形さんの本づくりの始まりです。

娘さんに様々な色や形をみせて、本の試作を始めたところ
意外な事に「2つの黒い丸」に反応を示したそうです。
なぜでしょう?駒形さんはここから
お母さんのおっぱいはなぜ黒い?に行き着き
視線の定まらない赤ちゃんにご飯のありかを記す為に
お母さんのおっぱいは黒くなっていくのではないか?
黒い2つのおっぱいはアイコンタクトをとっている目玉のようだ。
と言う考えにたどり着きました。おもしろい!
こうして出来たのが「FIRST BOOK」「PLAY WITH COLOR」です。

この本は箱に入ったバラバラのカードのような物で、日本の書店では受け入れられず
ご自身でニューヨークのMoMAへ売り込みに行かれました。
MoMAの人たちはこの本を大変気に入り1922年の
クリスマスディスプレイに起用しました。それを見たフランスの図書館司書が
フランスにその本を持ち帰りその後ヨーロッパで盛んにワークショップや展示が
行われるようになりました。そして、パリのポンピドゥーセンターの
ソフィー・キューテルさんという方が興味をもち、
彼女から視覚障害者向けの本を制作みませんか?というお話をいただいたそうです。
ソフィーさんは

「視覚障害者と健常者が共有できるほんを制作したい」

とおっしゃったそうです。「共有」はかねてから駒形さんのテーマでもあったため
心に響きこのオファーを承諾する事にしました。

ソフィーさんは駒形さんに

「視覚障害者にカタチを理解してもらう本の制作」

という宿題をだしました。駒形さんは単に「カタチ」を理解するのではなく
「カタチの変化」を捉えられないかと考えたそうです。
職人さんと相談し、試行錯誤をしながら制作しました。
表紙に大きな点字を使用した所モニタリングをしてくれた視覚障害者の方に
「わからない」と言われたそうです。けれども次には
「はじめ、触りながらこれが点字だと分からなかったけれど、
ある瞬間点字と分かったときとてもワクワクした」と。

ここから、人は本を読む時、想像を働かせる
(例えば;10人の人が漱石の坊ちゃんを読めば10人の坊ちゃん像がある)
視覚障害者の方たちにも「想像」して楽しむ事が出来る本を制作しようと
駒形さんは思いました。こうして出来た本「折ってひらいて」が完成しました。
紙、印刷、製本全てに妥協せずこだわった本はフランス語と日本語版があり
500部制作されました。値段は1万円以上もする高価なものになりました。
その事に憤慨する消費者も現れたそうですが
視覚障害者の方に気持ちよく楽しんでもらう本はどうしても
このような値段になってしまったのだそうです。
この本の制作後、正式にポンピドゥーセンターのハンディキャプを持った方たちの
プロジェクトチームからオファーがあり、「LEAVES」という
四季の移り変わりを木を通して感じる本が制作されました。その後ポンピドゥーセンター
では様々な素材を目隠しして触るワークショプも開催されました。
その後、駒形さんはワークショップ開催のため
マルセイユ、ラユニオン、イタリア・ボローニャ
パリの美術学校、少年院、様々な所へ旅しました。

ある時、娘さんの小学校の授業参観へ行かれました。
そこには生徒の描いた鯉のぼりの絵が沢山飾られていました。
どの鯉のぼりも同じような絵で元気がありません。
その中で、タケという少年の絵だけは他と違いました。
彼は学校の屋上へ上り、鯉のぼりを真上から見ました。
大きく口の開いた元気のよい鯉のぼりだったそうです。
とてもいい視点で描いたとてもいい絵だけれども
このようなちょっと違った視点をもつと窮屈になります。

また、ある時、不登校の子どもの為の学校でワークショップを開催しました。
初日、子どもたちは誰一人挨拶をしません。みなうつむいて目も会わせないのです。
駒形さんは学校の先生に「目隠しのワークショップ」をしましょうと提案。
先生たちは即座に、それは無理です。子どもたちの不安を助長しますと。
その時、ふとフランスで参加したDID (ダイアモンド・イン・ザ・ダーク)という
プロジェクトを思い出したそうです。真っ暗闇の中で行うワークショップ。
人々の声がとても優しくなったそうです。もう一つパリにある「暗闇レストラン」
での出来事。ここは視覚障害者がウェイターを勤めるレストランでお客は
真っ暗闇で食事をします。ワインをつぐ事さえもままならないのだけれど
みな協力しあってとても優しくなれるのだそうです。
(オーダーしたサプライズメニューはあまり美味しくなかったそうです。
やはり目でも楽しまないと味わうことが出来ないようです)

人は何か困った経験をすると仲良くなる。
日常的に困った環境を作るのは大変。
なのでその環境をワークショップに取り入れようと思ったのです。

不登校の子どもは「目隠しのワークショップ」に参加したあと
挨拶をするようになったそうです。

「Little tree」という本のお話。
駒形さんのとても信頼していた人がある時、クモ膜下出血でなくなられました。
その事がきっかけとなり「人の存在」を表す本を制作しました。
この本は、イタリア・ボローニャ国際絵本原画展でラガッツィ優秀賞を授与されました。
本は特別視覚障害者の方に向けて制作された本ではありませんでしたが
どのようにこの本を楽しむか見てみたかったのでパリヘ持って行きました。

彼らは、優しい指使いで木の様子を触手していきました。
紙はとても繊細な素材です。弱い素材だから接し方も優しくなる。

大抵の大人は子ども向けの物を制作する時に
壊れにくい素材を選びます。お茶碗にしても瀬戸物よりプラスティック。
子どもは「壊すもの」という決めつけがある。
けれども、物は壊れるという事をするのは大切な情操教育なのです。

マイノリティーの為に制作された物はマジョリティーの人にとっても
とても良いヒントになる事があります。
多数決で決めるのではなく、少数意見から何かを学ぶ事が
本当の民主主義なのではないかと思います。
地震以降、もっと日本の良さを伝えて行く、少数意見を聞く事が
大切になって行くのではないかと思います。

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◎聴講して思ったこと
ここには書ききれないほどのご自身の体験、経験、思想に
基づくお話をしてくださいました。
美しいスライド(ダブルレインボーなどただ見せたかっただけ(笑)なものも含めて)や
美しい本も沢山持って来てくださいました。

これは言っておかなくてはいけません、
駒形さんはとてもハンサムでダンディーでチャーミングなお方でした。
あんなにステキなお父さんをお持ちの娘さんはさぞご自慢でしょう。
駒形さんの娘さんにたいする愛情が最初の本を制作し
それが広く世界に広がって行ったのだと思います。
お父さんは娘の事を話す時あんなに素敵な顔をするのだなと思いました。
私も久しぶりにお父さんに会いたくなりました。

駒形さんの
「マイノリティーからマジョリティーが学ぶこと」
「子どもは「壊すもの」と決めてかかるのは良くない」
「様々な視点を持つ子どもを育てる教育」
「先入観、ステレオタイプ、既成概念を取り払う必要性」
はとてもホリスティックで前回聴講したカルラ・リナルディさんの
お話と共通する所がありました。

レッジョ教育の私たち大人(先生や)が子ども(生徒)に教えるのではなく
共に学んで行くという姿勢は、駒形さんの健常者と障がいを持った方が
共有できる本作りという考えにとても似ていると感じました。

/// 駒形克己さんのイベント///

クレヨンハウス 夏の学校2011でワークショップをされるそうです。8月6日(土)です

現在、東京都渋谷区松濤にあるギャラリーTOMにて「駒形克己の触察本」展が
「ぼくたちがつくったもの2011」展と同時開催されています。8月31日(水)まで


/// この講演に関係するリンク///

ONE STOKE
駒形さんの事務所のウェブサイト (Twitterもやられていますよ!)

MoMA
駒形さんの初めての子ども向け絵本「First Book」が展示された
ニューヨーク近代美術館(MoMA)のウェブサイト

Pompidou Center
駒形さんに視覚障害者向けの絵本制作を依頼した
ポンピドゥーセンターのウェブサイト

イタリア・ボローニャ国際絵本原画展
駒形さんが「Little tree」という本でラガッジー優秀賞を受賞した
日本でも人気のある国際絵本原画展のウェブサイト


///駒形克己さんの著書///

Little tree

折ってひらいて

FIRST BOOK

MEET COLORS

Posted by Nakamura
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by reggio_chiocciola | 2011-08-03 22:38 | その他
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